結論から言おう。
我々、普通の生活者がつみたて投資で持つべきは「全世界株式インデックスファンド」ただ一つだ。
巷ではS&P500の過去のリターンがもてはやされ、多くのインフルエンサーがそれを推奨している。
しかし、それは思考停止に他ならない。
元証券アナリストとして15年間、市場の狂乱と静寂を見てきた私が断言する。
なぜS&P500では不十分なのか。
なぜ金融機関はあなたに別の商品を勧めたがるのか。
本記事では、感情論や短期的なデータに一切惑わされない、長期投資の本質と最適解を、歴史的ファクトとプロの視点からあなたに授ける。
この記事を読めば、あなたはもう二度と投資先に迷うことはないだろう。
目次
なぜS&P500ではダメなのか?米国一極集中という「見えざるリスク」
多くの人がS&P500の輝かしい過去のリターンに目を奪われている。
だが、投資とは未来を見据える行為だ。
過去の勝者が未来の勝者であり続ける保証は、どこにもない。
過去の勝者が未来の勝者とは限らない:歴史が示す教訓
アナリスト時代、私は過去100年以上の市場データを分析することに多くの時間を費やした。
そこで得た教訓はただ一つ、「覇権は移ろう」ということだ。
1980年代後半、世界経済の中心は日本だった。
1989年の世界時価総額ランキングを見れば、トップ10のうち7社を日本企業が占めていたという事実を、今の若い世代は信じられるだろうか。
当時の誰もが、日本の未来を疑わなかった。
しかし、その後の「失われた30年」を我々は知っている。
あの熱狂の中心にいた企業の多くは、今や見る影もない。
これは、特定の国に資産を集中させることが、いかに危険な賭けであるかを物語る、動かぬ証拠なのだ。
S&P500の好調はいつまで続くか?マクロ経済の死角
現在の米国経済が強いことは事実だ。
しかし、その強さの裏に潜む構造的な課題から目を背けてはならない。
深刻な財政赤字、社会の分断、そして国際社会における影響力の相対的な低下。
これらはすべて、長期的なリスク要因だ。
「S&P500の構成企業はグローバルに事業展開しているから分散されている」という意見をよく耳にする。
一見、もっともらしいが、これは楽観的すぎる見方だ。
企業の国籍が米国である以上、米国の政治・経済・法制度というカントリーリスクから逃れることはできない。
現在のS&P500のリターンが、ごく一部の巨大テック企業に極度に依存しているという事実も、冷静に認識する必要がある。
この集中は、かつての日本の特定産業への熱狂と何が違うというのだろうか。
「それは思考停止です」専門家がS&P500を選ばない本質的な理由
ポートフォリオ理論の父、ハリー・マーコウィッツが示したように、予測不可能な未来に対して最も合理的な行動は、徹底的に分散することだ。
特定の国がこれからも勝ち続けると信じて資産を投じる行為は、もはや「投資」の領域を超えた「ギャンブル」に他ならない。
我々プロフェッショナルがなぜ全世界株式を選ぶのか。
それは、未来を予測する能力がないことを知っているからだ。
だからこそ、世界の経済成長そのものに賭ける。
これこそが、唯一無二の合理的な選択なのだ。
全世界株式こそが唯一の最適解である3つの根拠
ではなぜ、全世界株式がS&P500を凌駕する最適解だと断言できるのか。
その根拠は極めてシンプルであり、論理的だ。
重要なのは3つだけだ。
根拠1:世界の経済成長を丸ごと享受できる合理性
資本主義というシステムが続く限り、世界経済は長期的には成長を続ける。
技術革新が起こり、人口が増え、人々がより良い生活を求める欲求がある限り、この大きな流れは変わらない。
全世界株式インデックスファンドを持つということは、この人類全体の経済成長の果実を、最も効率的に受け取れる唯一の器を手にすることに等しい。
今はまだ小さい新興国の企業も、成長すれば自動的にポートフォリオに組み込まれていく。
我々はただ、世界の成長を黙って享受すればいいのだ。
根拠2:何もしなくても「リバランス」される究極の仕組み
投資において、資産配分の見直し(リバランス)は極めて重要だが、個人が実行するには知識も手間もかかる。
しかし、全世界株式インデックスファンドは、この問題を完全に解決してくれる。
例えば、MSCI ACWIのような指数は、各国の経済規模の変化に応じて、構成比率を自動的に調整してくれる。
日本が沈めば日本の比率が下がり、インドが伸びればインドの比率が上がる。
我々は何もしなくても、ファンドが勝手に最適な状態を維持してくれるのだ。
これは、究極の「ほったらかし投資」を実現する仕組みと言える。
根拠3:手数料という「見えざるコスト」との戦い
アナリスト時代、私は金融機関がいかに高い手数料の商品を顧客に売りつけるかを目の当たりにしてきた。
彼らにとって、顧客の利益は二の次。
自社の収益こそが最優先なのだ。
その点、全世界株式に連動する主要なインデックスファンドは、業界最低水準の信託報酬を誇る。
例えば、「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」のようなファンドの手数料は、年率わずか0.05775%程度だ。
年率1%や2%の手数料が、30年という長期運用であなたの資産をどれほど蝕むか、一度計算してみてほしい。
その差は、高級車一台分にも匹敵するだろう。
手数料という見えざるコストに勝利することなくして、資産形成の成功はあり得ない。
プロが実践する「全世界株式」との唯一無二の付き合い方
理論を理解しただけでは不十分だ。
実践において、どう向き合うべきか。
私の経験から導き出した、唯一無二の付き合い方を伝えよう。
私のポートフォリオの9割は全世界株式だ
私は自身の資産の9割を、低コストの全世界株式インデックスファンドで保有している。
残りの1割は、暴落時の精神安定剤として、また買い増しの資金として米国債券を少しだけ。
しかし、これはあくまで私のリスク許容度での話だ。
ほとんどの人にとっては、全世界株式一本で全く問題ない。
重要なのは、あれこれと手を出さないことだ。
シンプルなポートフォリオこそが、長期的にあなたを規律ある投資家にしてくれる。
市場の暴落は「バーゲンセール」に過ぎない
私はリーマンショックを最前線で経験した。
世界が終わるかのような悲観論が市場を覆い、多くの投資家が恐怖に駆られて資産を投げ売りした。
しかし、歴史を振り返ればどうだ。
あれは、優良な資産を安く手に入れる絶好の「バーゲンセール」だったのだ。
暴落は必ずまた来る。
その時、あなたがすべきことはただ一つ。
感情を殺し、いつも通り、淡々と積立を続けることだ。
恐怖に負けて売却することこそが、敗者のゲームに足を踏み入れる最も愚かな行為である。
日々の値動きを見るな。見るべきは入金力だけだ
投資で成功する鍵は、日々の株価の上下に一喜一憂しないことだ。
そんなものはノイズに過ぎない。
あなたが本当に集中すべきは、自身の事業や労働から得られるキャッシュフロー、すなわち「入金力」をいかに最大化するか、ただ一点だ。
そして、得られたキャッシュを淡々と全世界株式に再投資し続ける。
投資は人生の目的ではない。
あなたの人生を豊かにするための、あくまで手段であることを忘れてはならない。
よくある質問(FAQ)
最後に、よく受ける質問に対して、プロとして明確に回答しておこう。
Q: 新NISAでは、全世界株式一本だけで本当に大丈夫ですか?
A: 全く問題ない。
むしろ、あれこれ手を出すべきではない。
新NISAという非課税制度の恩恵を最大化するには、低コストの全世界株式インデックスファンドで長期的に複利を効かせることが最も合理的かつ再現性の高い戦略だ。
Q: 全世界株式は米国比率が6割と高いですが、本当に分散効果はあるのですか?
A: その指摘は本質を理解していない。
この比率は現在の世界の経済規模を反映した結果に過ぎない。
将来、他の国が台頭すれば、インデックスは自動的にその比率を調整する。
我々がやるべきは未来を予測することではなく、現在の市場の総意を受け入れることだ。
Q: 円安が続いていますが、今から始めても損しませんか?
A: 為替の短期的な動きを予測することは誰にもできない。
重要なのは、全世界の企業が生み出す価値(株式)という実物資産を、どの通貨建てで持つかという点だ。
円という単一通貨に資産を集中させることこそが最大のリスクであると認識すべきだ。
Q: S&P500と全世界株式を組み合わせるのはどうでしょうか?
A: それは無意味な行為だ。
全世界株式はすでにS&P500を内包している。
組み合わせることは、単に米国へのエクスポージャーを高めるだけであり、「全世界に分散する」という本来の目的を歪めることになる。
自信があるならS&P500一本にすべきだが、私は推奨しない。
Q: おすすめの具体的な投資信託(銘柄)を教えてください。
A: 特定の銘柄を推奨することは私の主義ではない。
しかし、選ぶべきは「eMAXIS Slimシリーズ」のように、信託報酬が極めて低く、純資産総額が十分に大きいファンドであることは間違いない。
ご自身で手数料を比較し、最も合理的な選択をしなさい。
まとめ
投資の本質は、未来を予測することではなく、不確実な未来に対して最も有利なポジションを取ることにある。
その唯一の答えが「全世界株式」への長期・分散・低コストでの積立投資だ。
これは、私が15年のプロ経験とリーマンショックという修羅場を経てたどり着いた結論でもある。
目先の流行や耳障りの良い言葉に惑わされてはならない。
金融機関のセールストークを鵜呑みにしてはいけない。
あなた自身が学び、考え、そして合理的な判断を下すのだ。
全世界株式という羅針盤を手に、自立した投資家として、泰然と資産を築いていってほしい。
それが、元証券マンである私の切なる願いだ。